2023年もIBM ChampionのData & AI部門で認定をされた西原です。マスクも今日から外して、新しい日常を率先して作ろうと頑張っています。
さて、米国の研究機関であるOpenAIのChatGPT、それを利用したMicrosoftの検索エンジンBing、対抗して出してきたGoogleのBARDが、新聞やニュース番組、ワイドショーにも取り上げられるほど話題です。すでに試された方も多いのではないでしょうか。
ただ、みなさまが気になっているのは「自社で使えるか、企業で使えるか」ということだと思います。この記事ではChatGPTの企業での利用をテーマにお伝えします。また、「未来の企業の情報発信のあり方はどうなるか」ということについても、私の考えをお話したいと思います。
本テーマの回答を先にお伝えすると「企業で使えるか」の質問に対しては「ChatGPTは企業でも使える」が答えです。使えるというのは、「その企業にしかないFAQに答えさせることができる」ということをここでは指しています。もちろん、精度やその他の課題はあります。それでも、業務や顧客対応などに取り入れることはできます(※実際のデータで試されたい、もう少し聞いてみたいなどはお気軽にご連絡くださいませ)。
なお、ひとつだけお断り、注意喚起を先にさせて頂くと、2023年3月時点で「ChatGPTと連携しました」というサービスは「なんだそれだけか」というサービスがほとんどです。ツールやSaaSを契約すれば自社でもChatGPTが使え、会社がすごいことになる、ということにはなりません(ある程度の便利さを実感はできるでしょうが、AIに期待するDXにはならないです)。「客集めの宣伝としての連携」を謳うようなサービスや会社がIT・AI界隈には多いのが実情。同じ業界に身を置くものとしては悲しい限りです(※補足:アイアクトでは企業利用ニーズにきちんと応えるChatGPT連携サービスを提供しています。発表内容はこちら。また、ChatGPTの導入支援アドバイザリーなども行っております。)。
本記事の内容 |
ChatGPTの企業での利用について、セキュリティの課題や社外に漏れるなどの記事がありますが、2023年3月2日以降では、企業が個社毎に利用する機能が公開されています。ChatGPTに関する記事は、2023年3月以降に作成、更新されている記事を参照してください。また、3月15日に基礎技術のGPT-3.5がバージョンアップされGPT-4というものが出ています。無償で使えるオープンなChatGPTサービスにはまだ反映されていませんが(有償版、API版はアップデート済み)、基本的には、「精度」や「速度」などの改善がされるものと捉えて頂いて、サービス内容には影響ないと考えて頂いて結構です。
ChatGPTのサイトに行って使う方法 | 一般にアクセスでき公開されている情報を元に学習し、質問内容も学習される。法律などの一般知識を回答できる |
APIという機能を通してChatGPTを使う方法 (2023年3月2日以降可能) |
一般に公開されていない情報を一時的に与え回答を生成させることが可能。学習には採用されないので、社外の人がChatGPTのサイトで質問しても回答にはならない |
お断り:本記事では、ChatGPTという言葉で、そのサービスに加えて、そこに使われている技術も指しています。またChatGPTのすべての機能については述べていません。「企業で使えるのか」という視点でポイントとなる点に絞って記事にしています。
ChatGPTなどの文章を生成できるAIについて、深く技術解説をするつもりはありません。ただ、技術や物事の基礎を理解していると、リスクはないか、こういうように応用できるかなどを想像することができますよね。そのために、少しお付き合いください(読み飛ばしたい方はこちらから読んで頂いても結構です)。
AIという機械が文章を生成できるのは、確率を計算できるから、になります。サイコロを振って、1がでるのは1/6である、あの確率です。それが基本です。確率というとわからなくなると思うので、シンプルな問答をしたいと思います。
次の言葉につながる言葉を言ってください。
「むかしむかし」
答えは100人中100人、みなさん同じで「あるところに」だと思います。
少し数は減るかと思いますが、100人中80人くらいは「あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました」まで答えると思います。
なぜ、みなの答えが同じなのか。それは、子どもの頃から触れていた文章のほとんどすべてが、「むかしむかし」の後には「あるところに」とつながっていたからです。つまり、「高い確率」で「あるところに」が次に来る、から、みなが同じ答えになります。ChatGPTがやっていることは基本的にはこれと同じです。
では少し、問題を変えます。
次の言葉につながる言葉を言ってください。
「我が国の経済は」
これは答えが割れると思います。
「成長が鈍化の一途を辿っている」「外国人労働者を受け入れることで成長するチャンスがある」など様々になります。なぜそうなるかというと、どれもつながる言葉としては正しいが、場合や条件によって違うからです。
例えば、「2023年度の決算短信において、我が国の経済はにつながる言葉を言ってください」とすると、「我が国の経済は、新型コロナウイルス拡大下の厳しい行動制限が緩和されるに従い、緩やかに持ち直す傾向にあります」などと、言葉の使い方は少し違っても同じような言葉がつながります。
場合や条件を与えることで、言葉のつながり方を、全部の確率(パターン)から推測するのではなく、ある程度限定されたパターンの言葉の中から選ぶことができ、結果、その通りだ、よく見る文章だと感じられるものができあがります。
少し話を変えます。なぜ、質問に対して回答が出来るのか。これは、シンプルに言うと文法があるからです。日本語の文法は難しいので、英語にします。
「What is A?」と質問をしたとします。答え方は、簡単です。「A is ....」と答えを始めればよく、文章の骨格が質問によって自動的にできあがります。後は、「むかしむかし」と同じように、「A」と来たらつながる次の言葉を確率でつなげていけば答えの文章ができます。
さらに、「IF/When B」という条件が付けば、「What is A?」だけでは答えが割れてしまうような質問にも、一様な回答を答えることができます。これが先ほどの決算短信の例となります。実は複雑で難しそうな質問も、基本的には「A」ということが知りたく、複雑なように見えるのは条件が複数あるからになります。
このように、言葉を確率でつなぐことで誰もがそうだと思う文章はできる、質問から答えの文章の骨格はできる、からChatGPTなどの生成系AIは言葉を紡ぎ回答を返します。
言葉のつながりは確率で計算でき、それが文章として読めるものになる。質問から、回答の文章の骨格はできる。実は難しそうな質問は、ただの条件が並んでいるだけであって、条件によってパターンを絞れば難しい質問への回答も作ることができる。それが生成AIが動く理由です。
では、その確率はどこからやってくるのでしょうか。
答えは「むかしむかし」と同じように、次に「あるところに」という文章が多いからその確率を計算できます。そういう風に書いてある文章が世の中に多いから、回答が作れるのです。ではChatGPTはどこでその文章を得ているか、計算して回答をつくる元の文章は何でしょうか。ご想像の通り公開されているオープンなWebサイト、例えば、WikipediaやニュースサイトやAmazonなどのコメントやみなさんの企業サイトなどにある文章を元にしています。それらのサイトから「むかしむかし」と来たら「あるところに」だなと計算の元となる言葉を取り入れています。
さて、ここまでで、なるほどそういうことか、と思って頂けたと同時に、ある疑問が出てきていると思います。「あれ、オープンな情報を元にということは、、、」。そうです、「自社の業務内容や業務フロー、そのマニュアルや規定」は「公開されていないので計算の元になっていない」のです。だとすると「ChatGPTはうちの会社の内部的なことは答えられない」ということになるのか。はい、その通りです。「うちの会社の物価上昇手当はいくらか」と聞いても、みなさんの会社の規定をChatGPTが知らない(取り込んでいない)ので答えられません。
もちろんみなさんの会社のWebサイトの情報などから「貴社の強みは何ですか?」と質問したら答えを出すことはできます。顧客対応としてはある程度機能する(かも)ということです。ただ、ひとつ注意を加えると、ChatGPTが持っている情報が常に最新とは限りません。よって、例えば今年から採用の基準を変えた場合に、その回答をChatGPTができるかというと保証はできません。
そして公開されていない情報は取り込めないので、ChatGPTを個社のナレッジマネジメントの課題に活かしたり、コールセンターのオペレータの回答支援に使ったりということはできません。これが「ChatGPTと連携しました」と謳っているサービスに飛びついても意味がない、みなさんの課題を解決できるものではないと最初にお伝えした理由です。
でも使い方は実はあります。その方法を次に解説します。
はじめに一般的な話をします。「北条政子とはどんな人物だったか」と、人やChatGPTに質問したとします。きっと、こういう答えが返ってくるでしょう。「北条政子は源頼朝の妻です。日本三大悪女の一人に数えられます」。
では、質問する時に、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の脚本を渡して、「北条政子とはどんな人物だったか。あなたが知っていることに加えて、この脚本も読んで教えてください」と質問します。そうすると、回答はどうなるでしょうか。「北条政子は源頼朝の妻です。日本三大悪女の一人に数えられていますが、静御前の子を助けようとするなど人情に厚い面もあったようです」などと答えが変わると思います。
このように、一般に公開されている情報を知っているChatGPTに、この文章も参考にして回答してください、とすれば企業個別の質問にも答えさせることができます。そして、それを可能にする機能が実はすでに公開されています。少し制約はありますがこの機能を使えば、例えば業務マニュアルを読み込ませることで、若手社員が知りたい答えを回答させるAIシステムを作ることが出来ます。
さて、一般には公開されていない個別の質問に答えさせる方法がChatGPTにはあることをお伝えしました。APIという機能が公開されておりそれを使うことで答えさせることが出来ます。
ただ、管理画面のようなものはなく、プログラムを書けば利用できるAPIがあるだけなので、個別の業務マニュアルやFAQをエンジニアでない人が読み込ませることは困難です。経営企画部や人事部などの社員が気軽に使える環境を用意し、全社に公開するというのは、ほぼできないでしょう。そこで活用すれば良いのがChatGPTと連携している製品、SaaSになりますが、最初から否定しているように、その製品が本当に使えるかは見極める必要があります。
見極め方は割愛します(もしこの製品はこういう使い方が出来るのか、という質問があればお問い合わせください)。ここでは見極め方ではなく、精度という視点で使い方を解説します。
ChatGPTは文章を生成してくれるので、とても読みやすく理解が促進されます。一方で、文章であることで人はその情報を鵜呑みにしてしまう恐れがあります。例えば、Googleで検索をして検索結果のリストが出てくる。そこから自分が欲しいのはこのページかなとクリックしながら探す場合は、すべての情報を鵜呑みにするのではなく、ある程度、精査を無意識にしています。これによって、間違った情報を正しいと思うことが少なくなります。ただ、文章で回答されると、人はその情報を検証をすることを怠ってしまいます。
また、ChatGPTは優秀ですが、100%の回答ができるというわけではありません。弊社の内部文書を利用しある方法で検証したところ、間違っていないのは6割程度でした。残り4割には文章全体としては正しいと思えるが、ひとつの数字や事実が間違っているなどもありましたし、全体がおかしいものもありました。やり方によっては精度はあげることもできますが100%にはなりません。このことからChatGPTの回答だけを従業員に与えるのはナレッジマネジメントや業務改善のシステムとして不適切です(もちろん、お客様にも)。AIなのだから学習をして精度を上げれば良いのではないか、というみなさんの声が聞こえてきますが、残念ながら、個別の資料を学習できる機能は現時点ではありません(そもそも学習してしまうと、オープンなChatGPTで誰かが質問すれば、みなさんの企業個別の質問に答えられてしまう可能性があります)。
このような状況下で、どのようにChatGPTを活用すれば良いのでしょうか。
現時点の結論は、補足的な情報としてChatGPTを利用するということです。では、何の補足情報として使えば良いのか。それは、業務で使う検索システムの検索結果リストの補足情報として使うのが現時点では正解だと思います。検索するとマニュアルやFAQがいままで通り結果としてならび、その結果一覧の横などにChatGPTが生成した回答文章を出せば、ChatGPTの文章で概要を理解しつつ、正しい情報を検索結果に並んだページやマニュアルから得ることが出来ます。
このような形で使うことで、ChatGPTを業務効率化、ナレッジマネジメントなどに活かすことができますし、顧客対応にもきちんとした形で使えます。ところがここにも課題があります(たくさん課題がありますね)。いまみなさんが使っている検索システムでは、残念ながらこの形を実現することはできません。理由は単純です。ChatGPTに質問するような文章では検索ができないからになります。「{製品/システムA}を{B}のような環境で{C}の時に、エラーが出るがどうすればいいか」などと検索ができないからです(A〜Cをみなさんの言葉に変えて、あるいは、これとは別に先輩や生き字引の人に質問するような文章で、イントラやWebサイト、ナレッジサイトで検索してみてください)。いかがでしょうか。検索がちゃんと機能したでしょうか。「うーん、この検索結果にChatGPTの文章が補足であってもなぁ、、、」という感想が多いのではないでしょうか。
では、仕方ないですね、ChatGPTの活用はあきらめましょう。となるのは悲しいですよね。この課題には、AI検索を取り入れれば解決することができます。AI検索とChatGPT、これが現時点での最適なソリューションです。
さて、少し長くなったので、「未来の企業の情報発信のあり方はどうなるか」は次の更新にしたいと思います。
いかがでしたでしょうか。ChatGPTの活用の仕方が想像できたのであれば幸いです。弊社ではAI検索『Cogmo Search』とChatGPTを、実用的な形で連携させることが可能です。みなさまの個別マニュアルなどをデータにしてChatGPTがどう回答するかをご覧頂くことも可能ですので、デモやPoCのご相談を承っております(ご相談多ければ先着順・締切もあるかもしれませんが)。ご興味ございましたら、、フォームよりご相談くださいませ(西原や弊社担当のメールアドレスなどをご存知の方はメールでも結構です)。
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